Vol.4 売れる経理屋

さすらいながら学んだ経理屋の
ノウハウをお伝えします

多くの経理屋はキャリア・アップを自ら捨てている

今回も引き続き、「キャリアとしての経理」を考えてみましょう。前回の「経理はキャリア・アップへの近道」と言う明るいテーマから一転、今回は暗い話になりますがお許し下さい。

前回私は、会計原則はどの会社でも同じだから融通が利く、と申し上げました。確かに経理業務をベースにキャリア・アップを考える際に、この「いろいろな会社で融通がきく」点は大変な強みです。しかし、経理屋としてそれなりにキャリア・アップを果たせても、その後で会計原則を絶対不変のものと考えてしまう事により、会社の他の組織、特に社長をはじめとする経営陣とコミュニケーションをしなかったり、頑なな態度を取ってしまう事により、逆にキャリア・アップを阻んでしまう経理の管理職の方々が多い気がするのは残念です。

より具体的な話をしましょう。
まず、経理業務は会計原則という、会社の枠を超えた共通ルールがある上に、経理として大切な基準に「継続性」「保守性」が挙げられているため、自分の仕事の基準がどんどん変わってゆく事はまずありません。そうだからこそ、数字が一旦現場の手を離れると、後の処理は全て経理屋に任されており、従って例えば決算業務は、基本的には経理屋オンリーで決定するのだ、と考えてしまう経理社員が多いのです。
これは違うのです。と、言うか、90%以上の経理で働く方が、そう考えがちです。さらにこれは経理ができる人が陥りがちな罠である事が厄介で、しかもこの考え方は、自らキャリアを閉ざしてしまう事につながる可能性が高いのです。

それは、こんな形で起こることが多いのです。
「田村部長、今期の決算、5億の営業利益とあるが、何とか決算見通しで発表した7億に持って行ってくれないかな?」
「それは無理です、社長。もう現場の経理処理はほとんど済んでいますから、あとは締めるだけです。決算が締まった所でご連絡しますので、お待ちいただけますか?」
「そうか・・・」
あ、今、田村部長に経理部長としてイエローカード点灯しました。田村部長がすべき(だった)事は、以下の通りです。

①決算見通しで7億の数値が出ているのであれば、田村部長はその数値に持って行くべく、あらゆる努力をすべき。
②具体的には、こんな会話をする前に、(しかも相当前に)売上予測とそのフィードバック(営業の予測が当たった、外れた、いくら外れた)を繰り返し、社長に決算見通しを継続して伝えるべきだったのです。イメージ的には、車をぴたっとある場所で止める時には、ブレーキを踏んだり、アクセルを軽く入れたり、そんな事、しますよね?田村部長は、社長が言ってしまった決算予想の額に、ピタッと決算を合わせるべく、調整や連絡をする事が経理屋の役割だって事に気づいていないのです。そして、そんな経理屋が多すぎ(というかほとんど)なのです。
③売上予測も実施したし、その見通しは社長と常にすり合わせていた、それでも、予測の範囲を超えた数値のブレが起きてしまった!そんな事はよく起きます。というか、そんな事が起こる時がほとんどです。その時に備え、例えば決算〆では、経理責任者は、「益出し項目」「損出し項目」からなる「調整項目」をできるだけ多く持ち、決算予想の数値に合わせ、それらの調整項目を小出しにして社長が発表した決算予想の数値に「合わせこむ」技が必要になります。決算は決して経理屋が「出す」ものではありません。マネジメントが「出してしまった」数字に「合わせこむ」のです。もちろん、「粉飾決算」と言われない範囲で。

上記の業務をスムースに実施するには、経理主導で、営業現場などを巻き込んだ「決算〆管理プロセス」ができている事が重要ですが、多くの「経理ができる経理管理職」は、この手のコミュニケーションや、プロセス作りが苦手です。私の経験では、80%位の方が苦手意識を持っている気がします。特に、会計原則に忠実に仕事をしてきた方になればなるほど、この手の業務が苦手な傾向があります。前回も申しあげましたが、経理管理職は、社長に近いポジションで働くことが多いわけですが、現場や社長とのコミュニケーションを欠いたまま、経理業務を進め、そのまま重大な決定、例えば決算をしめてしまう事は、キャリアを殺す動きに直結しかねないリスクをはらんでいます。

具体的にはこんな展開です。
決算予想が大きく外れてしまった社長は「田村君は真面目に仕事はするけど、僕の言うこと聞いてくれないし、突然数値が変わったりして、信用置けない」と思い始めるのです。一方、田村部長も「社長は経理が判らないからな、全く困ったもんだ」と感じ始めます。こうなると両者の溝は深まる一方です。これはいけません。
経理部長はあくまでも社長傘下のスタッフ部門です。社長に付いて行かねば自分が職を失う運命にあります。社長も必死です。一般社員ならともかく、社長に付いてこない経理部長がいては、会社が成り立ちません。

次に何が起こるかと言うと、どこかの段階で、社長が「俺の側についてくれそうな経理屋」を外部から起用してしまうのです。その方は、大企業などで経営戦略本部長等を歴任された、肩書き上は立派な方である場合が多いのです。しかし、そんな方は、伝票振りなどといった「瑣末な業務」はした事がない場合がほとんどです。頭が「貸方借方」の方ではないのです。

この社長の判断は大きなリスクをはらみます。ベンチャー企業などの経理責任者は、会計そのものの理解がないと全く務まりません。まず部下が付いてきませんし、次々起こる難題を解決する際、「貸し方借り方アタマ」からの発想ができないと、到底経理業務を完遂することはできません。しかし社長は田村部長を退けます。この決定は、社長が、「貸し方借り方ばかり言っている頭の固い田村部長よりも、大企業で調整に長けた方の方が、経理責任者に向いている」と思ったために下されています。残念な結末になりそうです。当面経理部門の混乱は続きそうです。しかしこの混乱を導いたのは、田村部長が会計だけやってればいい、と思ってしまったことに、実は端を発しているのです。

いろいろな会社で経理の責任者をしてきた私の、本音を話しましょう。
私が従事した5社の経理管理職を累計すると、そのおおよそ半分の方々は、貸し方借り方が判っていない方だと感じています。この事実は真面目に経理を勉強している方にとっては衝撃的なはずです。なぜそんな方がそんなに上に?それは「経理」を真面目に勉強している多くの方々が、「経営」から遠いところで仕事をしてしまったために、社長から遠ざけられるために起こっている場合が多いのです。これは非常に勿体ないです。あまり美しくない言葉で言えば、「もうちょっとゴマすってれば、ずっと上に行けるのに・・・」と言う事です。でも勉強を続けて来て、誇り高い経理屋はなかなかそこができない。かく言う私も、4回の転職中、2回はそんなことで職を捨てました。

絶望した田村部長は、転職を考えます。すると有り難い事に、経理の仕事は会社を超えた共通性が高いために、面接の仕方や履歴書の書き方を少し工夫するだけで結構売れます。(具体的には私にご相談下さい。転職ヤクザとして世の中渡ってきましたので。)そして「田村部長はサムライだ」なんて一部の人からは言われながら、会社を後にするのです。しかし転職って、そんな甘いもんじゃありません。次の職場でも田村部長は同じドジを踏み、同じような風景を見る事になる確率が極めて高いのです。これは実は最初の会社で「社長への擦り寄り方」を学ぶより、はるかに疲れるし、時間もかかってしまう事が多いのです。 あな恐ろしや、経理管理職の無限地獄!そしてこんな風景は、「プロフェッショナル系」と呼ばれる業務に必ず付いて回っているようです。

と、言うわけで、今回は「多くの経理屋はキャリア・アップを自ら捨てている」という角度から、経理業に真面目に邁進している方が陥りやすい罠について語らせて頂きました。皆様、気をつけましょう!(気を付けるその筆頭は私ですが・・・)

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プロフィール

井筒 廣之
1984年、日系メーカー入社。経理屋として仕事を始める。
1990年、社内ベンチャーに挑戦、一応成功する。
1997年、メーカー退職、本当のベンチャー企業に挑戦。資金難で「胃が口から出そうな」苦しみを味わう。
1999年、大手飲料会社の管理課長として転職。管理部長に昇進。
2004年、商社CFOとして転職。
2007年、マンパワー・ジャパン(現マンパワーグループ)入社。
2014年、取締役代表執行役社長退任。

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